架空生命ストリキニン

小説、大衆音楽、芸術

読んだ本2021

今年は就活やら研究やらで忙しくあんまり読めませんでした。院を出てから社会人になるまでの微々たる期間でたくさん読みたいものですね。

 

今年読んだ本で印象に残ったものを列挙していきます。

 

 

  • 上田岳弘『ニムロッド』

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いい本でした。自分はこの本を読んでからリアルの人間にこの本の話を(その対象が小説に興味があるか否かを無視して)しまくっており、「またその話かよ」と呆れられそうなものですが、どうか勘弁してください。

芥川賞の選考委員の誰かがが「最終章でこの作品は飛翔する」と言及しており、自分が感じたことはその13文字ですべてです。何かを引き抜かれたのではなく初めからそこにあった虚無感、その中を通り抜けていく風の突き刺すような冷徹さが妙に心地いいのです。完璧を志向し続けた人間の末路を案じたとき、必ずその先にあって目を背けることのできない虚脱が、読了後のそこに確かにある。そんな小説でした。

 

 

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まだ読んでなかったんですかという話ですが読んだのは一応今年です。いい本だったなと思います。同窓会で出会った同級生と河川敷を歩くシーンがとても印象的でした。「誰がどう読むか」で読了感がかなり違ってくる作品であるとも思います。そういう意味でこの作品はあまり周囲の人間におすすめできません。

 

 

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実は大昔の作品なんですよね。当時は「最近の若者は何をするにも無気力だ」という言説がありその補強としての含意があったようですが、名作は名作。今読んでも色褪せることはありません。

本の中にあるのは読書体験です。文中に点在する狂気が一つの結末に収斂していく様子は、確かに自分と生きている世界とは異なるけれども確かにそれが起きているというリアリティを以てこちらの世界に侵食してきます。この作品は「テレビ以外に何もない部屋で画面をぼんやり眺めているような」という独特の読書体験に読者をいざないます。

おすすめです。

 

 

  • 今村夏子『こちらあみ子』

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これを読み終わってまず第一に思ったことは「こんな作品を書ける小説家がいるならしばらく日本の文壇は安泰だなあ」です。読了が1年弱前なのであんまり覚えておらず、曖昧な感想になってしまうのですが、ただただ超絶技巧だと思います。偶然の産物ならまだ納得ができるものですが、この作品中の全ての出来事を書こうと思って作者が筆を取ったのだとしたら……。

ぶっ飛んでいます。常軌を逸しています。雑に要約をするとちょっとヘンテコな主人公がヘンテコ行為で他人に迷惑をかけまくるので田舎に送られる話、というだけなんですが、読み終わったとき「毒を盛られた」と感じてしまう。そんな作品でした。

 

 

 

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どの本をまとめようかな〜と思って列挙してみたら印象的な本として思いついたものはたったの4冊でした。今年は小説以外の本をよく読んでいたこと、同じ作者の本を読んでばかりいることを考慮に入れたとしてもあまりに少ないですね。

毎年この時期になると、一年で読んだ本が少なすぎることへの反省と来年こそはちゃんと読書するぞという安っぽい決意を抱きます。果たして来年はちゃんと読書できるのでしょうか?

自分は読書の目的を(一次二次問わず)創作のためと位置付けています。今年もなんだかんだ、ものを読んでいた時間よりもものを書いていた時間のほうが長かったように思います。それは目的から鑑みるに正しいことです。読んだ本の数を誇ることより自分の手で何かを生み出す行為のほうがよほど健全なので、この「読んだ本が少ない」という現象そのものは問題視する必要はないと思うし、現状維持でいいように思います。そういうわけで、きっと来年の自分も大して本を読まずに過ごすのだろうなあ。

みなさんもおすすめの本を教えてください。