架空生命ストリキニン

小説、大衆音楽、芸術

2020/06/10 感想

 

著者 : 川上弘美
発売日 : 1999-08-10

 

 

旅行に行ったときに積み残していた残りを読み終えたところ。表題作はその実読み終わっていてよく覚えていないので、残っていた『惜夜記』の感想だけ。

川上弘美の本は読後にちょっとした爽快感があるのでそれを追い求めてついつい読んでしまう。わけのわからないことが次々起こって、それが当然のことのようにしてお話が進んでいくのだけど、それがなんだか面白い。例えば、

 

『背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。』

『いくら注いでもコップが一杯にならないと思ったら、コーヒーだったはずの液体が、いつの間にか夜に変わっているのだった。』

『ぶつかった拍子に、男の懐からは何匹ものもぐらがこぼれ落ちた。「しまったしまった」騒ぎながら拾い集めている。』

『永遠の象というものが西方にいると聞いたので、探すことになったのである。あまり気が進まなかったが、探すことに決まってしまっているのだった。』

 

とまあ、平易な言葉でまるで嘘みたいな想像が書いてある。人を騙すための嘘の銃口を向けられたら身構えてしまうけれど、こうもくらげみたいな嘘が並んでいると、ついついにやけてしまったりする。読み終わって、これは何小説なんだと考えこむのだけれど、SFと言われてもあまりピンとこないし、ナンセンス文学というのともなんだか隔たっている気がする。それを考えさせられている時点で思う壺というものである。

川上弘美はこれで3冊を読み終えたところ。もう一冊積んであるものもいつか読み終えなければならないな。その前にもっと読まなきゃいけないものがあるので、あとまわし。

というわけで、次は今年の本屋大賞、『流浪の月』をしかと読みます。1位だけは毎年読むようにしているのだ。